離婚協議の財産分与を前提に、周辺の売り出し価格をみてから、鑑定できるか相談がきました。
多くの方が、近隣の物件がいくらで売りに出されているか、いわゆる「売出価格」を参考に相場を把握しようとされます。
「売出価格」と「鑑定評価額」の決定的な違い
まず理解すべきは、「売出価格」と我々が評価する「鑑定評価額」は、似て非なるものだという点です。
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売出価格
これは「売り手の希望価格」です。ローンの残債といった、売り手の個人的な事情が反映された「言い値」であり、市場で成立するかは未知数です。 -
鑑定評価額
これは「客観的な市場価値」です。国家資格を持つ不動産鑑定士が、法律に基づき、特定の個人の事情を完全に排除して算出します。公平な市場で、買い手と売り手が合理的な判断のもとに取引した場合に成立するであろう、最も確からしい価格を指します。
鑑定評価額は、単なる相場ではなく、その物件固有の価値を分析して価格を算出します。
特に一戸建ての評価では、実際に売買が成立した近隣の価格(成約価格)を基礎とします。その上で、評価対象となるご自宅の、
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土地の条件(形、広さ、日当たり、接している道路の状況など)
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建物の状態(築年数、間取り、手入れの状況、デザインなど)
といった、その物件だけが持つプラス・マイナスの要因を一つひとつ専門的に分析し、価格に反映させていきます。
だからこそ、「坪単価〇〇万円」といった大雑把な相場ではなく、その物件固有の価値を反映した、「根拠のある価格」を算出することができるのです。
「あの土地は高く売れたのに…」近隣の特殊な取引事例への対処法
ここで、しばしば問題になるのが、近隣の特殊な取引事例です。「あそこの家が相場よりかなり高く売れた」「向かいの土地は驚くほど安く買えた」といった情報を耳にし、その価格が基準であるべきだとお考えになる方がいらっしゃいます。
しかし、個別の不動産取引には、市場全体の相場とは異なる「特殊な事情」が含まれていることが多々あります。
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高額な取引の背景例:
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強い動機を持つ買主: 「子どもの学区を絶対に変えたくない」「実家のすぐ隣に住みたい」など、特定の買主にとって他に替えがきかない強い個人的な動機があり、高値でも購入するケース。
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安価な取引の背景例:
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相続税の支払い等が迫っており、売主がとにかく早く現金化する必要があった(売り急ぎ)。
- 親族間で財産を譲る目的で、相場よりも意図的に低い価格で売買したケース
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私たち不動産鑑定士は、こうした個別の取引背景を調査・分析します。そして、市場全体の相場を反映していない「特殊な事情」による取引だと判断した場合は、それを評価の基準から除外したり、特殊要因として価格を補正したりします。
財産分与で不動産鑑定を利用する意義
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議論の土台ができる
公平・中立な専門家が算出した「鑑定評価額」という客観的な数字は、感情的な対立を避け、冷静な話し合いを進めるための確かな土台となります。 -
将来のトラブルを未然に防ぐ
不動産鑑定評価書は、調停や裁判の場においても、専門家の意見として高い証拠能力を持ちます。口約束や曖昧な相場観で分与を決めてしまうと、後から「不公平だった」という不満が出てくる可能性があります。鑑定評価は、そうした将来のリスクを回避するためにも有効です。 -
双方が納得しやすい
評価額に至った詳細な根拠が「不動産鑑定評価書」という書面で明確に示されるため、双方が結果を受け入れやすくなります。
ご依頼にあたっての注意点
最後に、鑑定をご検討される際の注意点をいくつかお伝えします。
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費用と期間: 鑑定には所定の費用がかかります。また、現地調査や役所調査などを含むため、ご依頼から評価書の発行まで2週間~1ヶ月程度の期間を要します。
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評価の基準日: 不動産の価値は常に変動しています。そのため「いつの時点の価格か」という「基準日」を定めることが重要です。財産分与では「別居時」や「離婚成立時」などを基準にすることが一般的です。
もし不動産の価値についてお悩みでしたら、一度、不動産鑑定士にご相談ください。我々は、公平な立場から、その解決をお手伝いする専門家です。